特許事務所に特許相談に来たところ、「特許請求の範囲」「明細書」という聞き慣れない言葉を耳にする。
どうやら特許出願をするためには、「特許請求の範囲」「明細書」という書類を準備する必要があるらしい。

ところで、

  • 「特許請求の範囲」って何でしょうか?
  • 「明細書」って何でしょうか?

何となく雰囲気はわかるけれど、実はよくわかっていない。

このような方いらっしゃるのではないでしょうか?

以下、特許請求の範囲と明細書についてわかりやすく説明します。

1.特許請求の範囲は、発明の権利範囲を定めるための書類

特許請求の発明は、発明の権利範囲を定めるための書類及び記載です。

1ー1.特許請求の範囲の例

百聞は一見にしかずということで、以下に、特許請求の範囲の記載の例を示します。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛筆と、
前記鉛筆の一端に取り付けられた消しゴムと、
を含む筆記具。
【請求項2】
請求項1の筆記具であって、
前記鉛筆の断面は六角形である、
ことを特徴とする筆記具。

この特許請求の範囲は、発明が「消しゴム付き鉛筆」である場合の特許請求の範囲の一例です。

1ー2.請求項(従属請求項、独立請求項)

この例のように、特許請求の範囲には、複数の発明を記載することができます

この例では、請求項1の発明と、請求項2の発明という2個の発明が特許請求の範囲に記載されています。

請求項2の出だしが「請求項1の消しゴム付き鉛筆であって、」となっていることからわかるように、請求項2は請求項1に従属しています。

請求項2のように他の請求項に従属している請求項を、従属請求項(従属クレーム)と呼びます。

また、従属請求項でない請求項を、独立請求項(独立クレーム)と呼びます。この例では、請求項1が独立請求項です。

発明を多面的に保護するために、特許請求の範囲には複数の発明を記載することが一般的です。また、特許請求の範囲に、複数の発明を記載すると、これらの複数の発明のそれぞれについて特許性があるかどうか審査を受けることができます。

1ー3.特許請求の範囲に不要な発明特定事項があるかどうかチェック

特許請求の範囲は、特許発明の範囲を定義する極めて重要な書類です。

特許請求の範囲に、不要な発明特定事項があると、その発明特定事項を行わないことで容易に特許権の侵害を避けつつ発明を実施することができてしまいます

このため、特許請求の範囲をチェックする際には、不要な発明特定事項があるかどうかという観点からチェックしてみて下さい。

2.明細書は、発明を説明するための書類

明細書は、発明を説明するための書類&記載です。

特許請求の範囲は、特許発明の範囲を定義するためのもであり、不要な限定を避けるために抽象的に記載されます。

このため、特許請求の範囲だけを読んでも、どんな発明であるのかがわからないことが少なくないです。

したがって、明細書で、発明がどのようなものかをわかりやすく説明することになっています。

2ー1.明細書の例

百聞は一見にしかずということで、以下に、明細書の記載の例を示します。

【明細書】
【発明の名称】筆記具
【技術分野】
本発明は、筆記具に関する。
【背景技術】
従来は、鉛筆及び消しゴムは分離していた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【非特許文献1】○○○○
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
鉛筆と消しゴムが分離していると、消しゴムを紛失する可能性がある。
本発明は、消しゴムを紛失する可能性が低い筆記具を提供するすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
本発明の筆記具は、鉛筆と、鉛筆の一端に取り付けられた消しゴムと、を備えている。
【発明の効果】
鉛筆の一端に消しゴムを取り付けることにより、消しゴムを紛失する可能性を低くすることができる。
【発明を実施するための形態】
例えば、鉛筆の一端と消しゴムの一部とを、金属の筒状体にはめ込むことにより、鉛筆の一端に消しゴムを取り付ける。
鉛筆の断面は、六角形であってもよい。鉛筆の断面を六角形とすることで、転がりにくくすることができ、かつ、鉛筆を持ちやすくすることができる。

この明細書は、発明が「消しゴム付き鉛筆」である場合の明細書の一例です。

明細書には、【発明の名称】【技術分野】【背景技術】等の欄に、墨付きかっこで囲まれた情報を記載します。

以下、これらの明細書の記載欄の中で、特に大切な記載欄を紹介します。

2ー2.【背景技術】→【発明が解決しようとする課題】→【課題を解決するための手段】→【発明の効果】の流れ

上記の明細書の例では、これらの記載欄は以下の通りです。

【背景技術】
従来は、鉛筆及び消しゴムは分離していた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【非特許文献1】○○○○
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
鉛筆と消しゴムが分離していると、消しゴムを紛失する可能性がある。
本発明は、消しゴムを紛失する可能性が低い筆記具を提供するすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
本発明の筆記具は、鉛筆と、鉛筆の一端に取り付けられた消しゴムと、を備えている。
【発明の効果】
鉛筆の一端に消しゴムを取り付けることにより、消しゴムを紛失する可能性を低くすることができる。

【背景技術】→【発明が解決しようとする課題】→【課題を解決するための手段】→【発明の効果】の流れがあると、発明を理解しやすくなります

このため、明細書には、これらの記載をすることが一般的です。

これらの記載欄は、あくまで発明を理解しやすくするためのものであり、発明自体の説明ではありません。また、これらの記載欄は、発明の限定解釈を引き起こすことがあります。このため、これらの記載欄は、上記の流れがわかる程度にあっさり書くことが多いです。

2ー3.【発明を実施するための形態】

上記の明細書の例では、これらの記載欄は以下の通りです。

【発明を実施するための形態】
例えば、鉛筆の一端と消しゴムの一部とを、金属の筒状体にはめ込むことにより、鉛筆の一端に消しゴムが取り付ける。
鉛筆の断面は、六角形であってもよい。鉛筆の断面を六角形とすることで、転がりにくくすることができ、かつ、鉛筆を持ちやすくすることができる。

【発明を実施するための形態】が、明細書の中心となる記載欄です。

この記載欄で、特許請求の範囲に記載された発明を具体的に説明します。

なお、発明を実施するための実施形態や変形例が複数ある場合には、これらの複数ある実施形態や変形例をできる限り多く記載するようにします。

これは、一般に、実施形態や変形例をたくさん記載するほど、広い特許請求の範囲が認められるためです。

また、実施形態や変形例をたくさん記載するほど、新規性、進歩性を解消するための補正のネタが増えるため、新規性、進歩性がないという拒絶理由を解消することができる可能性が高くなるためです。

3.まとめ

特許請求の発明は、発明の権利範囲を定めるための書類及び記載です。

明細書は、発明を説明するための書類&記載です。

上記の特許請求の発明の記載の例と、上記の明細書の記載の例を見て、これらの書類及び記載のイメージをつかんでおくと、特許の打ち合わせがスムーズにいくかもしれません。

ご参考になりましたら幸いです。