近年インドに特許出願をする方が増えてきましたが、インドでは、保護対象となるソフトウェアの発明の範囲が日本よりも狭いです。このため、インドにソフトウェア関連発明を出願する際には、この点に注意する必要があります。
以下では、インドにおけるコンピュータ関連発明の特許実務の情報をお伝えします。
1.インド特許法第3条(k)
インド特許法第3条に、インド特許法における発明に該当しない発明(除外の対象となる発明)が列挙されています。
その中に、「数学的若しくはビジネスの方法、コンピュータプログラムそれ自体又はアルゴリズム」があります(3条(k))。
すなわち、
- 数学的方法
- ビジネスの方法
- コンピュータプログラムそれ自体
- アルゴリズム
は、インド特許法における発明ではないため、特許を受けることはできません。
2.コンピュータ関連発明(CRI)審査ガイドライン
それでは、どのような基準で、3条(k)に該当するか否かを判断するのでしょうか。
コンピュータ関連発明(CRI)審査ガイドライン(2017年に改訂された”Guidelines for Examination of Computer Related Inventions (CRIs)“)に、その判断に関する情報が示されています。
以下、上記の文献の和訳である、JETROさんのコンピュータ関連発明(CRI)審査ガイドラインの日本語仮訳を引用して、その内容の一部を解説します。
4.5 コンピュータ関連発明に関連して除外される対象の判断
(略)
重要なのは、クレームの内容を、クレーム全体を総合して判断することである。方法/プロセス、装置/システム/デバイス、コンピュータ・プログラム製品/コンピュータが読み込み可能な媒体などの形式でのクレームが、前述の除外カテゴリーに該当する場合、これは特許されない。ただし、実質的に、クレーム全体として除外カテゴリーに該当しない場合、特許は拒絶されるべきではない。
(略)
ということで、クレームの内容は、クレーム全体を総合して判断します。
そして、実質的に、クレーム全体として除外カテゴリーに該当しない場合には、特許性は拒絶されません。
4.5.1 「数学的方法」を対象とするクレーム
数学的方法は、純粋に抽象的又は知的な方法が特許を受けることができないという原則を示す代表例である。したがって、計算方法、方程式の公式化、平方根や立方根を求める方法及びその他同様の知的技能を伴う行為は、特許を受けることができない。同様に、抽象的なアイデアの単なる操作又は実際の用途を指定しない純粋に数学的な問題/方程式の解決も、このカテゴリーに基づく除外の対象となる。
ただし、発明で求められる保護の範囲を明白に特定するために、クレーム内に公式が存在しているというだけでは、当該クレームは必ずしも「数学的方法」とは見なされない。また、公式を含む発明およびコード化、通信/電気/電子システムのノイズ削減または電子通信の暗号化/解読のためのシステムを生む発明は、除外されない可能性がある。
ということで、原則として、数学的方法は除外の対象となります。
しかし、例外的に、公式を含む発明およびコード化、通信/電気/電子システムのノイズ削減または電子通信の暗号化/解読のためのシステムを生む発明は、特許の対象となる可能性があります。
4.5.2 「ビジネスの方法」を対象とするクレーム
「ビジネスの方法」という用語は、商業的又は産業的企業における商品又はサービスの取引に関連するありとあらゆる活動を含む。直接「ビジネスの方法」として作成されていないが、不特定の手段(means)が示されていることが明らかなクレームは、特許を受けることができないと判断される。ただし、クレームの対象がその発明を部分的であれ実行するための器具及び/又は技術的方法を指定している場合には、クレームは全体として審査されなければならない。クレームが実質「ビジネスの方法」である場合は、特許対象外とみなされる。
(略)
ということで、原則として、ビジネスの方法は除外の対象となります。
4.5.4 「コンピュータ・プログラムそれ自体」を対象とするクレーム
以下のようなコンピュータ・プログラムそれ自体を対象とするクレームは、特許性から除外される。
(i) コンピュータ・プログラム/一組の命令/ルーチン及び/又はサブルーチンを対象とするクレーム
(ii) 「コンピュータ・プログラム製品」/「命令を含む記憶媒体」/「データベース」「命令の組み込まれたコンピュータメモリ」、つまり、コンピュータで読み取り可能な媒体に保存されたコンピュータ・プログラムそれ自体を対象とするクレーム
(略)
ということで、プログラムクレーム及び記録媒体クレームは、インドでは認められていません。
インドでは、プログラムクレーム、記録媒体クレームは削除する必要があります。
以上が、コンピュータ関連発明(CRI)審査ガイドラインの中の、反論で使えそうな部分の抜粋になります。
以上で終わり??
はい。終わりです。
結局、発明が、数学的方法等に該当するのかどうかの具体的な判断基準は、ガイドラインには示されていません。
それでは、実務上、どのようにして、数学的方法等に該当しないため、発明該当性があると主張するのでしょうか?
3.裁判例
結論から申し上げますと、ガイドラインに詳しい説明がないため、実務上は、インドの裁判例、インドと同じ体系の特許法を有するイギリスの裁判例に基づいて、発明該当性(patentavility)があると反論することになります。
例えば、クレームに記載された発明は、技術的課題を解決し、技術的効果を奏するため、「数学的方法」「アルゴリズム」等ではないため発明該当性があると主張します。
4.まとめ
インドにおけるコンピュータ関連発明の特許実務をまとめると、以下のようになります。
- ビジネスの方法の権利化は難しい
- プログラムクレーム及び記録媒体は削除
- 公式を含む発明およびコード化、通信/電気/電子システムのノイズ削減または電子通信の暗号化/解読のためのシステムを生む発明については、裁判例に基づいて発明該当性を主張
ご参考になりましたら幸いです。