特許相談会で、「特許取得までのコストを抑えるために特許出願を自分でやりたいと思っているのですが、一人でできますか?」という方にお会いすることがあります。

お気持ちはわかります。

特許出願には多額のお金がかかりますからね。特許出願の費用についてこの記事をご参照下さい。

以下では、自分で1から明細書を書き特許出願をして特許を取れるかについて解説いたします。

1.結論

一言でいうと茨の道です。

特許を取得できるか否かと言えば、特許を取得できる可能性はあります。しかし、その特許権の強さは保証できません。

また、確かに金銭的なコストは削減できる可能性はありますが、時間的なコストは割に合わない可能性が大です。

2.具体的に何が難しいのか

2ー1.「特許出願の書類の作成」と「拒絶理由通知対応」が難しい

以下に、自分で1から明細書を書き出して特許出願をして特許を得るまでにする必要があることを列挙します。

なお、特許を取るまでの流れの詳細については、この記事をご参照下さい。

  • 特許調査
  • 特許出願の書類の作成
  • 特許出願
  • 出願審査請求
  • 拒絶理由通知対応
  • 特許料の納付

黒字で示した「特許調査」は、J-platpatで一人でも行うことができます。

青字で示した「特許出願」、「出願審査請求」及び「特許料の納付」は、特許庁に対する事務手続きであり、比較的簡単です。

出願審査請求は、特許出願の日から3年以内に行う必要があります。また、特許料の納付は、特許査定の謄本の送達日から30日以内に行う必要があります。これらの期間を過ぎないように気をつけましょう。

問題は、赤字で示した「特許出願の書類の作成」と「拒絶理由通知対応」です。

以下では、「特許出願の書類の作成」の難しさについて説明します。

2-2.「特許出願の書類の作成」の難しさ

特許出願の書類として、

  • 特許請求の範囲
  • 明細書
  • 図面

を作成する必要があります。

特許法上、図面は必須の書面ではないのですが、図面があった方が発明を説明しやすいので、実務上ほぼ100%図面を作成します。

特許請求の範囲は、発明の権利書に相当する書類です。
明細書及び図面は、発明の説明書に相当する書類です。

2-2-1.明細書及び図面は、十分な時間があれば書くことが可能

明細書及び図面は、文章を書くのが得意な方であれば、十分な時間があれば、初心者でも特許出願に耐え得るものを書くことができるのではないかと考えます。

明細書及び図面は、発明の説明書に相当する書類ですので、少々乱暴な言い方をすれば、読んだ人が発明を理解できればOKであるからです。

より好ましくは、明細書及び図面は、発明が狭く解釈されないように、かつ、発明に漏れがないようにするためにできる限り多くの実施形態及び変形例が含まれるように書く必要があります。

2-2-2.特許請求の範囲は、難しい

これに対して、特許請求の範囲を書くのは圧倒的に難しいです。特許請求の範囲は、権利書であり、発明を定義する部分です。

まず、特許発明の範囲が、広くかつ明確になるように記載する必要があります。

また、特許請求の範囲に、1つでも余計な構成要件があれば、その余計な構成要件を行わないことで、特許権の侵害を逃れつつ発明を実施することができてしまいます。1つでも余計な構成要件があれば、他人に特許権を行使することができない意味のない特許になる可能性があるということです。

さらに、新規性及び進歩性等の特許要件は、特許請求の範囲に記載された発明について判断されます。特許請求の範囲は、これらの特許要件を満たすように記載する必要があります。

このため、プロの弁理士は、過去の経験、実務慣行、審査基準、判例等に基づいて、

  • 特許発明の範囲ができる限り広くかつ明確になるように
  • 余計な構成要件がないように
  • 新規性及び進歩性等の特許要件を満たすように

細心の注意を払って特許請求の範囲を記載します。

特許請求の範囲は、いきなり書けるようなものではありません。弁理士は、弁理士試験合格後、登録前の実務研修を経て、オンザジョブトレーニングで先輩弁理士からの指導を受けて、数か月~数年かけて、徐々に適切な特許請求の範囲が書けるようになって行きます。

このため、初心者が1人で特許請求の範囲を書くのは難しいと考えます。

明細書、特許請求の範囲を自分で書き上げる場合であっても、少なくとも特許請求の範囲については、弁理士のチェックを受けることをおすすめします。

明細書、特許請求の範囲のチェックをご希望であれば、こちらからお問い合わせ頂ければ幸いです。

3.結語

自分で1から明細書を書き特許出願をして特許を取るのは、かなり難しいと考えます。

コスト削減等のために自分で特許出願をする場合であっても、特許請求の範囲については弁理士のチェックを受けることをおすすめします。

ご参考になりましたら幸いです。