この発明について特許を受けることができますか?
相談会でお受けする相談の中で最も多いのがこの相談です。
経験上、特許の相談をお受けする発明の1/3位は、実施されている等の理由により既に新規性を失っているため、特許を受けることができないことが多いです。
素晴らしい発明なのに既に実施しているため特許を受けることが難しいことが判明すると、とてももどかしい気持ちになります。
ここでは、実務上最も重要な特許要件の1つである新規性について説明します。
また、特許出願時に新規性を失っていたとして、新規性を失わなかったとみなす裏ワザである新規性喪失の例外についても説明します。
1.発明の新規性とは、発明が客観的に新しいこと
発明の新規性とは、発明が客観的に新しいことです。
自分が新しいと思っていても、他者から見て客観的に新しくなければ、新規性がないと判断されてしまいます。
新規性を失った発明については、特許を受けることはできません。
これは、特許法は、新規発明の公開の代償として特許権という独占排他権を付与することを目的としているためです。
例えば、特許出願時に以下の何れかに該当する発明は、新規性がないと判断されます。
- 守秘義務のない人に知られた発明
- 公然と実施された発明
- 文献やウェブサイトに発表された発明
なお、特許出願前に、守秘義務を有しない社外の人等に発明を開示する必要がある場合には、秘密保持契約(NDA)を締結した上で、発明を開示することをおすすめします。
弁理士には法律で守秘義務が課せられています(弁理士法30条)。弁理士に発明の内容を話しても新規性は失われません。お気軽に特許相談にお越し下さい。
2.新規性の判断の仕方
新規性の判断は、請求項に係る発明に基づいて行われます。
請求項に係る発明と引用発明との間に相違点がある場合には、新規性があると判断されます。
これに対して、請求項に係る発明と引用発明との間に相違点がない場合には、新規性がないと判断されます。
新規性がないと判断される例
発明1には、A、B、Cの3個の特徴がありました。
発明1=A+B+C
これに対して、公知文献に記載されている発明2には、A、B、Cの3個の特徴がありました。
発明2=A+B+C
この場合、発明1と発明2は、A、B、Cを備えているという点において同じです。
このため、発明1は、新規性がありません。
新規性があると判断される例
発明1には、A、B、Cの3個の特徴がありました。
発明1=A+B+C
これに対して、公知文献に記載されている発明2には、A、B、Dの3個の特徴がありました。
発明2=A+B+D
ここで、特徴Cと特徴Dは異なるとします。
この場合、発明1と発明2は、CとDの部分で異なります。
このため、発明1は、公知文献に記載されている発明2との関係では、新規性を有します。
このように、特許出願に係る発明が、公知文献に記載されていない特徴を1個でも有していれば、新規性があると判断されます。
2.新規性の判断時期は、特許出願時
新規性の判断時期は、特許出願時です。
新規性がないと判断される例
特許出願前に発明を公然と実施しました。
この場合、この発明は、公然実施により特許出願前に新規性を失っています。このため、この発明は、新規性を有しません。よって、原則として、この発明について特許を受けることはできません。
素晴らしい発明をした場合に、発明を発表したくなる気持ちはわかりますが、特許出願を考えている場合には、特許出願前は発明を秘密にしておきましょう。
なお、特許出願前に新規性を失った発明についても、例外的に特許を受けることができる場合があります。それは、新規性喪失の例外規定の適用を受けた場合です。新規性喪失の例外については、後述介します。
新規性があると判断される例
特許出願の後に初めて発明の内容を発表しました。
この場合、この発明は、特許出願時には新規性を有しています。このため、この発明について特許を受けることができる可能性があります。
3.新規性喪失の例外
復習になりますが、特許出願前に発明を公知にした場合には、その発明は新規性を失うため、原則として、特許を受けることはできません。
しかし、新規性喪失の例外規定の適用を受けると、その発明は公知にならなかったものとみなされます(特30条)。
3-1.新規性喪失の例外規定の適用を受けるための要件
新規性喪失の例外規定の適用を受けるためには、以下の2個の要件を満たすことが必要です。
3-1-1.公知にした日から1年以内に特許出願をすること
新規性喪失の例外規定の適用を受けるためには、発明が公知になった日から1年以内に特許出願をすることが必要です。
言い換えれば、発明が既に新規性を失っていたとしても、その新規性を失った日から1年以内に特許出願をすれば、特許を受けることができる可能性があります。
3-1-2.自己の行為に起因して、又は、意に反して、公知になったこと
新規性喪失の例外規定の適用を受けることができるのは、(1)自己の行為に起因して公知になったは発明、又は、(2)意に反して公知になった発明です。
(1)自己の行為に起因して公知になったは発明とは、より詳細には、特許を受ける権利を有する者の行為に起因して公知になった発明です。
例えば、
- 学会発表
- プレスリリース
- 製品テスト
により公知になった発明について、「自己の行為に起因して公知になった発明」として、新規性喪失の例外規定の適用を受けることができます。
また、
- 守秘義務が課されていた公開者により公開された発明
- 窃盗、詐欺、脅迫等の不正の手段により公知になった発明
について、「意に反する公知」として新規性喪失の例外規定の適用を受けることができます。
なお、新規性喪失の例外規定を受けるための書類を作成するのに弁理士費用がかかります。
また、ほとんどのケースでは、新規性喪失の例外の適用を受けることができますが、新規性の喪失の態様によっては、要件を満たさないため、新規性喪失の例外が認められない可能性もあります。
このため、「新規性喪失の例外規定の適用を受ければ良いので、特許出願前に発明を公知にしてもよい。」と考えてはいけません。
新規性喪失の例外規定の適用は、文字通り「例外」に過ぎません。原則に従い、特許出願前は発明を公知にしないようにしましょう。
3-2.例外規定の適用を受けることができるか弁理士に要相談
実際は、
- 発明を複数回公知にしてしまった
- 発明を公知にした者と、特許出願人が異なる
場合が多く、新規性喪失の例外規定の適用を受けることができるかどうか、受けるとしたらどのように適用新規性喪失の例外規定の適用を受ければよいのか判断が難しいことが多いです。
新規性喪失の例外規定の適用を受けることができるかどうかわからなければ、お気軽にお問い合わせ下さい。
4.結語
特許出願時に新規性を失っている発明については、原則として特許を受けることはできません。
発明を守秘義務のない人に話したり、発明を公然と実施したり、発明を発表したりするのは、特許出願後にしましょう。
また、新規性を失っていたとしても、新規性喪失の例外規定の適用を受ければ、特許を受けることができる可能性があります。
ご参考になりましたら幸いです。