明細書に記載されたある特徴でクレームを限定しようとする場合、明細書のそのある特徴についての記載をそのまま用いると余計な限定がされてしまうので、明細書のそのある特徴についての記載から必要でない記載を除いた記載で、クレームを限定することがしばしばあります。

しかし、ヨーロッパでは補正の制限が厳しく、日本やアメリカと比較するとそれほど自由にはクレームを補正することができません

このため、ヨーロッパの特許実務において、日本やアメリカにおける特許実務と同じ感覚で、明細書のある特徴についての記載から必要でない記載を除いた記載でクレームを限定すると、「明細書のある特徴についての記載から必要でない記載を除いた記載でクレームを限定することは、許されない中間上位概念化(intermediate generalisations)であり、新規事項の追加(Art.123(2) EPC 違反)である。」という拒絶理由を受けることがたまにあります。

以下では、許されない中間上位概念化(intermediate generalisations)であると指摘を受けた場合に、どのように対処するのかについて説明します。

1.Guidelines for Examination 3.2.1

Guidelines for Examination 3.2.1に、中間上位概念化(intermediate generalisations)についての基準が記載されています。

その基準は、特定の実施形態からある特徴を取り出してクレームに追加する場合には、以下の2個の条件(i)(ii)の両方を満たしていなければならないというものです。

  • (i)その特徴がその実施形態の他の特徴に関係しないか密接に関連していないこと
  • (ii)その特徴を孤立化して上位概念化すること、及び、その特徴をクレームに導入することが全体の開示からみて正当化されること

Guidelines for Examination H-V, 3.2.1

… When a feature is taken from a particular embodiment and added to the claim, it has to be established that:
– the feature is not related or inextricably linked to the other features of that embodiment and
– the overall disclosure justifies the generalising isolation of the feature and its introduction into the claim. ….

2.取り得る方針

(1)Guidelines for Examination H-V, 3.2.1に記載されている2個の条件を満たしていることを主張する

例えば、その特徴について、「例えば」「必須ではない」「~てもよい。」等のオプションであることを示す記載がある場合には、このオプションであることを示す記載を手掛かりに、「2個の条件(i)(ii)を満たすため、その特徴を追加した補正は新規事項の追加には該当しない」と主張することができます。

具体的には、

「例えば」「必須ではない」「~てもよい。」等のオプションであることを示す記載があることからわかるように、その特徴又はその特徴を孤立化するために削除した構成はあってもなくてもよいため、(i)その特徴はその実施形態の他の特徴に関係しないか密接に関連していないと言える。

また、「例えば」「必須ではない」「~てもよい。」等のオプションであることを示す記載があることからわかるように、その特徴又はその特徴を孤立化するために削除した構成はあってもなくてもよいため、(ii)その特徴を孤立化して上位概念化すること、及び、その特徴をクレームに導入することが全体の開示からみて正当化される。

と反論できるのではないでしょうか。

しかし、残念ですが、(1)の主張が認められることはそれほど多くはありません。

これは、EPOの審査官は厳格であることが多く、補正等により新たな争点を導入せずに単に反論だけをしても認めてくれないことが多いためです。

また、同じ実施形態に含まれる以上、その特徴はその実施形態の他の特徴に何らかの形で関係しているとも考えられるため、「(i)その特徴がその実施形態の他の特徴に関係しないか密接に関連していないこと」を示すのは難しいからです。

(1)の主張は、「駄目で元々。認められればラッキー!」位の気持ちで、行うとよいのではないかと思います。

(2)明細書に記載されている具体的な構成でクレームを限定する

クレームの範囲は狭くなってしまいますが、比較的高い確率でこの新規事項の追加の拒絶理由を解消することができます。

クレームの範囲は狭くてもよいが、より確実に権利化を図りたい場合には、(2)の方針で対応してもよいのでないかと思います。

(3)その特徴を追加した補正を含む直近の補正を白紙に戻して、新規事項の追加に該当しないような補正を改めて行う

日本やアメリカの特許実務とは異なり、ヨーロッパの特許実務では、これまで行った補正を白紙に戻して、国際出願時のクレームをベースに補正をやり直すことは珍しくはありません。

許されない中間上位概念化であり新規事項の追加であると今回指摘を受けた補正以外の補正で、前回通知された拒絶理由を解消する等の所望の目的を達成することができそうであれば、(3)の方針で対応してもよいのではないかと思います。

(1)及び(2)の方針と比較すると、(3)の方針は自由度が高いので、好ましい結果が得られる可能性が高いのではないかと思われます。

3.まとめ

許されない中間上位概念化(intermediate generalisations)であると指摘を受けた場合の取り得る方針としては、

  • (1)Guidelines for Examination 3.2.1に記載されている2個の条件を満たしていることを主張する
  • (2)明細書に記載されている具体的な構成でクレームを限定する
  • (3)その特徴を追加した補正を含む直近の補正を白紙に戻して、新規事項の追加に該当しないような補正を改めて行う

という3個の方針が考えられます。

私の経験上、(2)又は(3)の方針で対応することが多いです。(1)の方針で対応しても認められないことが多いためです。

ご参考になりましたら幸いです。