また、素晴らしい発明をしてしまった。
今度の発明がもたらすメリットは多岐にわたるという点で特に優れている。
具体的には、この発明により、aという効果も生じるし、bという効果も生じるし、cという効果も生じるし、・・・。
今回の特許出願にあたり、これらの効果を訴求したいと思っている。
しかし、弁理士さんに書いてもらった明細書案を確認したところ、
- 発明の効果が1つしか書かれていない!?
- この弁理士さんは、私の発明をきちんと理解しているのかな?
- まさか手抜きして特許明細書を書いているんじゃないかな?
このような経験がある方がいらっしゃるのではないでしょうか。
以下、特許の明細書で発明の効果を複数書かない方がよい理由についてわかりやすく説明します。
1.結論
発明の効果を複数書かない方がよいのは、発明の効果をたくさん書くほど、発明の範囲が狭く解釈される可能性があるためです。
以下、発明の効果をたくさん書くほど、発明の範囲が狭く解釈される可能性がある理由について説明します。
2.発明の効果は、発明の範囲を狭める
効果aを奏する発明の範囲をAとします。
効果bを奏する発明の範囲をBとします。
効果aと効果bの両方を奏する発明の範囲をA∧Bとします。
今回は、たまたま、範囲A及び範囲Bよりも広い特許請求の範囲Cについて特許されたとします。
範囲A、範囲B、範囲A∧B、範囲Cについては、以下の図を参照してください。
2ー1.具体例1:発明の効果として効果aのみが記載されている場合
通常、特許請求の範囲Cが、発明の範囲となります。
しかし、この場合、「効果aを奏するのが発明」として、発明の範囲は範囲Aに限定して解釈されてしまいます。
2ー2.具体例2:発明の効果として効果aと効果bの両方が記載されている場合
通常、特許請求の範囲Cが、発明の範囲となります。
しかし、この場合、「効果aと効果bの両方を奏するのが発明」として、発明の範囲は範囲A∧Bに限定して解釈されてしまいます。
具体例1と具体例2とを比較すると、発明の効果として効果aと効果bの両方が記載されている具体例2の方が、発明の範囲が狭くなることがわかると思います。
このように、発明の効果をたくさん書くほど、発明の範囲は狭く解釈されてしまいます。
このため、発明の効果は基本的には1個だけ書くことが好ましいとされています。
3.発明の効果を複数書けば進歩性が認められるわけではない
そもそもなぜ発明の効果を複数書きたくなるのでしょうか?
それは、発明の効果を複数書くことにより、発明の素晴らしさをアピールすることができ、進歩性が認められるような気がするためです。
しかし、残念ですが、発明の効果を複数書けば、進歩性が認められるわけではありません。
これは、進歩性の判断では、本発明の構成と、引用発明の構成との相違点が最も考慮されるためです。そして、進歩性の判断では、発明の効果は、おまけとして考慮されることもある程度に過ぎないものであるためです。
このため、特許の明細書において、発明の効果を複数書くメリットは小さいと言えます。
特許の明細書には、発明が解決しようとする課題と発明の効果を記載しなければならないという記載要件があります。この特許要件を満たすためには、1個の発明が解決しようとする課題と、この課題に対応する1個の発明の効果を書けば十分です。
なお、先に述べた限定解釈が行われないようにするために、必ず解決することができる発明が解決しようとする課題及び必ず達成することができる発明の効果のそれぞれを1個記載するようにします。
4.発明の効果としてではなく、実施形態の効果として記載
しかし、効果を複数主張したいこともあります。この場合には、どのようにすればよいのでしょうか?
この場合には、発明の効果ではなく、実施形態の効果を記載するようにします。例えば、以下のように効果を記載します。
xという構成を有することにより、〜という効果を奏する。
この記載は、あくまで実施形態のxという構成を有することによる効果の記載に過ぎないので、この記載に基づいて、発明の範囲に対する限定解釈が行われる可能性は低いです。
5.まとめ
特許の明細書で発明の効果を複数書かない方がよいのは、発明の効果をたくさん書くほど、発明の範囲が狭く解釈される可能性があるためです。
複数の効果を記載する場合には、発明の範囲に対する限定解釈を防ぐために、実施形態の効果として記載するようにします。
この記事がご参考になりましたら幸いです。